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show notes
今回のシリーズ「大人の寝かしつけ」では、泉鏡花の『龍潭譚』を朗読。寝落ちするも良し完走するも良し。
<あらすじ>
躑躅か丘
真昼の陽気の中、幼い千里(ちさと)は姉の言いつけを破り、ツツジの咲き誇る丘へと一人で迷い込む。あまりの美しさと視界を埋め尽くす「赤」に言い知れぬ恐怖を覚え、家へ帰ろうとした矢先、五彩に輝く美しい毒虫(ハンミョウ)を見つける。夢中になって小石で打ち殺すが、顔にしつこい痒みを感じて何度も手や袖で擦るうちに方向感覚を失い、気づけば一人取り残されてしまう。
鎮守の社
どこまでも続くうねうねとした坂道に迷い込んだ千里は、疲れ果てて土に落書きをしながら姉を思い出し、寂しさから泣き出してしまう。夕日に染まるツツジの赤さに包まれる中、声を限りに姉を呼ぶと、遠くから「もういいよ」というかくれんぼの合図が聞こえる。その声を頼りに進むと、見覚えのある鎮守の社に辿り着く。家が近いと知り安堵するが、脳裏にはあの毒虫の鮮烈な輝きが焼き付いていた。
かくれあそび
境内で、普段は遠ざけている「かたい(被差別階級)」の子供たちに誘われ、寂しさもあって一緒にかくれんぼを始める。千里が鬼になり目を開けると、子供たちの姿はなく、お堂の扉が重々しく閉まって誰もいなくなってしまう。置き去りにされて困り果てていると、どこからともなく顔が白く背の高い美しい女性が現れ、微笑みながら子供たちの隠れ場所を示すように千里を案内し始める。
おう魔が時
黄昏時、女性に導かれて小さな稲荷の社の裏を覗き込むが、そこはただ冷たい風が吹き抜ける暗い隙間で、振り返ると女性の姿は消えていた。恐怖に身をすくませる千里の耳に、自分を探す下男たちや姉の声が届く。しかし、「自分をおびき寄せるための化け物の罠ではないか」という恐怖から、声をかけることもできず、社の裏に息を潜め続ける。
大沼
目の前を通り過ぎる姉を追いかけるが見失い、錯乱した千里は手水鉢(みたらし)の水面を覗き込む。そこに映っていたのは、毒虫の毒によって異形に変貌した自分の恐ろしい顔だった。そこへ駆けつけた姉に縋りつくが、あまりの変わり様に姉は「人違いだった」と走り去ってしまう。絶望と悔しさから野山を無我夢中で走り抜けた千里は、やがて夜の大沼の葦の茂みへ倒れ込み、意識を失う。
五位鷺
目を覚ますと、千里は見知らぬ部屋の布団の中にいた。庭の筧では、あの美しい女性が裸体でお湯を浴びており、そこへ一羽の白い鳥(五位鷺の化身)が舞い下りる。女性は千里に「お前の顔が変わったのはハンミョウという毒虫のせいだ」と優しく教え、身の回りを世話する。そこへ顔の赤い老人が現れて筧の水を飲み、二人は千里を家へ送り届ける相談をする。
九ツ谺
夜、女性は千里に添い寝し、この場所が「九ツ谺(ここのつこだま)」と呼ばれる由来を教え、淡雪のように清々しい乳房を含ませて眠らせる。夜中に屋根で凄まじい音が響くと、女性は守り刀を構えて千里を守る。ふと目を覚ました千里は、横で眠る女性の顔に手を伸ばすが、なぜか指先が触れられず、まるで霞を撫でるかのような不思議な感覚に包まれる。
渡船
朝、胸に守り刀を載せて眠る女性の姿を見て、亡き母の姿を重ねた千里は「この人も死んでしまった」と勘違いして刀を引き抜く。はだけた朱色の布地を血と見誤ってパニックになるが、再び眠ってしまう。目覚めると赤顔の老人の背に負われて山を下り、大沼の小舟に乗せられる。初めての船で目を回す千里の前で、美しい女性は沼の風景とともにくるくると旋回し、あでやかに微笑んで姿を消す。
ふるさと
無事に人間界へ送り届けられた千里だったが、戻った故郷は冷たかった。叔父の奈四郎からは「憑き物がついた」と縄で縛られ、大人たちからは詰問される。外へ出ればかつての友達から「さらわれもの」「気違い」と罵られ、石を投げつけられる。周りから異物として扱われ、実の姉からも「心を静めよ」と泣かれるうちに、千里は「自分は本当に狂ってしまったのではないか」と自らの正気をも疑い始め、再び暗室に閉じ込められる。
千呪陀羅尼
暴れる千里はお寺へ連れて行かれ、高僧たちの激しい読経と雷鳴が轟く中、本堂の厨子に祀られた尊い仏像と、必死に祈る姉の温かい抱擁によって、憑き物が落ちたように正気を取り戻す。その夜の大嵐で「九ツ谺」の谷は崩れ、大きな深い淵となった。時は流れ、若く凛々しい海軍少尉候補生へと成長した千里は、かつて美しい人が消え、今は静かな水面を讃えるその青い淵の前に立ち、粛然と佇むのだった。






